Dear to me
〜4章 〜忘れていたヒトを
初めて彼女を見たのは帰り道のコンビニの前。友達であろう二人の後を追い掛けながら肉まんがどうのと叫んでいた。
(うるさい女だな…)
それが始めに思った感想だった。
けど怒っている顔が妙に可愛らしく、俺はさっき買った肉まんを彼女に手渡し、もう喧嘩するなよと言って帰った。
自分でも何でこんなことをしたのかよくわからない。
しばらくして彼女は同じ学校の同級生だということを知った。
廊下で何度かみかけたからだ。
ああ、そう言えば体育祭の時に俺が彼女の大事にしていたリボンを駄目にしてしまった時があったっけ。
謝った時に彼女は笑って許してくれたがその顔があまりにも痛々しく
本当に大事にしていた物だったことを知って、罪悪感が込み上げてきた。
俺が新しい物を買ってあげれば済むってわけじゃないけどこのままだと
俺の気が納まらないので彼女を誘い、リボンを買いに街まで行った。
リボンが売っている店に着くと、彼女は俺に選んでほしいと言ってきた。
正直この時はかなり焦った、なんせ幼なじみの沙希以外の女性に物をプレゼントしたことが無く、
まして彼女の色の趣味がまったくわからない。
(これは運を天に任せるしかないな…)
そうして俺は一つのリボンを手にとりレジへ持って行った。レジの店員は俺を珍しい物を見たような感じで笑っていた。
そりゃそうだ、女性雑貨店で男がリボンを買っているのだ。
正直俺もこんな恥ずかしいことしたくないが俺がしたことと彼女が外で待ってることが俺を購入に踏み切らせたみたいだ。
外で待ってた彼女に買ってきたリボンをプレゼントした。
今まで自分がしていたリボンと色が全く違っていたから戸惑っていたが、俺がその
理由を教えたらすごく嬉しそうにお礼を言ってその場で髪を結んでくれた。
そして「似合う…かな?」と控えめに聞いてきた。
俺は「すっごく似合ってて可愛い」と言った、それはお世辞じゃなくて本気でそう思ったから。
その言葉をきいて彼女はこれ以上ないくらいの笑顔を俺に向けてくれた。
その笑顔で俺は彼女にプレゼントしてよかった、と心の底から思った。
それから俺は学校で彼女の姿をよく追うようになり、彼女の笑顔をよく思い浮かべるようになっていった。
え〜と、何て言ったっけな、彼女の名前。確か…。
「いつまで寝てるのよ!さっさと起きて!」
その言葉と同時に布団を剥ぎ取られ俺は現実に戻った。
「おい沙希…起こす時はもっと優しく起こしてくれ。一応怪我人だし今日は休みじゃないか」
今し方乱暴に俺を起こした幼なじみの沙希を寝ぼけた目で見つめた。
「何言ってるのよ、怪我はもうほぼ完治して学校行ってるくせに。それに休みだからっていつまでも寝てていいわけないじゃない」
そう言ってカーテンを開ける。
眩しい光が俺を直撃する。
「それより出掛けたい所があるから付き合って」
いきなり何を言い出すんだこの女は。
「お前なぁ、こっちの都合も考えろよ。いきなり言われても…」
俺が愚痴を言っていると、
「あなたが行かなきゃ駄目なのよ…」
沙希は健に聞こえないように呟いた。
「ん?何か言ったか?」
「何でもないわよ!とにかく一緒に行くの!駄目って言っても連れていくか
沙希のあまりの迫力に俺は負けた。
「わ、わかったよ。着替えるから外で待ってろ」
そう言って沙希を追い出し、着替え始める。
(そう言えば夢で見たあの娘の名前なんだったっけ?)
ふと、思いつき健は思いだし始めたが(…まぁいいや)
寝ぼけて頭が回らない健は考えるのをやめた。
寝ぼけていたから沙希のいつもと違う表情と雰囲気に気がつかなかった…。
第5章に続く
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