〜St.Valentine’s Day〜

(眠い…) 私は心からそう思った。

月曜が憂欝だと言ったのは誰だったか、土日と連休が続いた後に朝早くから仕事 や学校。

仕事はしょうがないとして学生くらい朝は休みとか午前だけとかにしてくれても よいのではないだろうか?
文部省はそこんとこ分かってない。
真純(ますみ)は心底思った。
(まぁ、学力低下のこの世の中じゃそれはありえないけどね…)一瞬心に浮かん だ考えを頭から消して真純は校門をくぐった。
今日は割と風が強く、肩まで伸びた髪がよくなびいて邪魔だ。「真純さーん!お はようございます!」
後ろからトレードマークのポニーテールを左右に振りながら少女が走ってきた。
「あぁ、おはよう沙梨(さり)。
そんなに急がなくてもクラスで必ず会うじゃな い、それに私は逃げたりしないから」
私は走ってきて息のあがっている彼女の頭を撫でてあげた。
「だって…朝一で真純さんにあいさつしたかったから」 可愛いことを言ってくれる。
「ありがと、でも走ってる最中に転んで怪我でもされたら後味悪いから気をつけ なさいね。あと朝はきちんと起きなさい」
そう言って彼女の唇に付いてたジャムの残りを拭いてあげた。
「あ、ありがとう ございます!」
「別に同じ学年なんだから敬語使わなくてもいいのに」
私は呆れた顔で言ってあげた。
「あ、いえ。何か真純さんってすごく落ち着いた雰囲気だから話してると年上と 話してるみたいで…」
「それって誉め言葉よね?」
「もちろんです!」
あぁ、こう笑顔で言われると何も言えなくなるな…。
私はこの娘の純粋さに改めて感動した。
「どうしたんですか?」 沙梨が聞いてきた、どうやら顔に出てしまったらしい。
「…ん?あぁ、もうすぐチャイムが鳴るなと思って」
私はうまくこの場を誤魔化すことにした。
「そうですね…って、そんな呑気に言ってる場合じゃないですよ!早く!ダッシ ュです!」
沙梨が私の手を掴んで走りだした、本当に元気だなぁ。


(…眠い…) 私は本当に心のそこからそう思った。
この教師の授業はただぐだぐだと変な話を話しているだけの授業で,全然タメにな らないためテストの時は自力で勉強しなくちゃならない。
そのくせ寝てると容赦なく成績を下げる本当に嫌な奴だ。
よくこんなのが教師をやっていられる、教育委員会の目は節穴だらけだと問い詰 めたい。
そんな訳で私は今ものすごく眠い、しかもお昼を食べた後の授業ときたものだ、 担任も人が悪すぎる。
私は容赦なく襲いかかる睡魔と戦いながら前を見ていた、沙梨の後ろ姿が目に入 る。
そりゃ目立つ髪型してるから嫌でも目に入る。
(沙梨とは…ええっと何で話すようになったんだっけ?) 沙梨に聞かれたら「どうでもいいことは覚えてるのに何で大事なことを忘れるん ですか!」と本気で怒られそうだ…。
私は眠気を覚ますために昔のことを思い出そうと頑張ることにした、少なくても このオヤジの話を聞くよりは自分のためになるだろう。
私は自分の記憶を遡る旅へと出発した。


去年の夏休みあけ最初の体育授業の時、2on2でバスケの試合をやることになった 。
(参ったな…) この時私は本気で焦った。
私は自分から積極的にクラスに溶け込むことはしなかったから基本的(これまで の学園生活の約九割。
この一割は事務的な会話しかしてない)を一人で過ごして きたためクラスに親しい人などまったくいない状況である。
ここからパートナーを探すのは至難の技だ。
(しかたない、ここは一人で…) と考えていた時、
「あの…ペアになりませんか?」
不意に後ろから声をかけられたので振り替えるとポニーテールの可愛らしい娘が 立っていた、この娘がクラスの隠れたムードメーカー的存在の沙梨という人物だ ということは僅かながら理解していた。
「私は別に構わないけど…他に友達たくさんいるでしょ、別に私じゃなくてもい いんじゃない?どうして?」 あぁ、せっかく声をかけてくれたのにどうしてこう突き放すような言い方しか出 来ないんだろう。
しかたない、私の心はガキだから。
「ええっと…他の友達とはもうたくさん話したし、真純さんとは今まで全然話し たことないからこの機会に真純さんとたくさんお話して理解したいからです。」
凄い。
こういうことを笑顔で言うことが出来るとは、私は素直に感心した。
まぁせっかく声をかけてくれたし他に宛てもないため私はすんなりOKすることに した。
彼女は始め少し驚いたがすぐにいつもの顔になり握手を求めてきた、どうやら断 られると思っていたらしい。
まぁ当然か。
せっかくパートナーになってくれた沙梨の面子を保つために私は本気でバスケに 勝つことにした、なにより負けた時の罰ゲームである後片付けがめんどくさかっ た。
試合だが自分で言うのもあれだけど運動神経はそこらの男子には負けない自信が あったし沙梨の運動神経が割とよい方だったため私は思うとおりのプレイができ 、そのまま勢いで優勝してしまった。

(あの一件からだったかな?あの後沙梨はクラスの友達よりよく私のとこに来る ようになったな…あと運動神経を買われて沙梨の凄まじい推薦で体育祭のリレー までやらされたっけ…)
自分で思い出して苦笑してしまった。
(でも…) 私の本当の姿を知ってはたして沙梨はまだ私を好きだと言ってくれるだろうか?
朝あの娘は私を年上みたいと言った。
そりゃそうだ、私は一度高校を中退して今の学校に入ったのだから。
そのことを沙梨は知らない…。
なぜ中退したか? (…あんまり思い出したくないな…) 「どうしたんですか?」 「へ?」 我ながら間抜けな返事をしたものだと思い顔をあげると沙梨が立っていた、いつ のまにか授業は終わっていたらしい。
「悩み事ですか?私でよければ相談に乗りますけど…」 あぁ、こんな顔されたらますます本当の事が言えなくなるじゃないか。
「さっきの授業を何とか出来ないかとね」
「あーわかりますよ」
沙梨は疑いもせずすぐに食い付いてくれる、少し罪悪感を感じた。
「しかし…どうしてこんなに学校全体がそわそわしてるわけ?今日何かあったっ け?」
女子達が集まってキャアキャア言ってるし男は男でムラムラしてるし。
「真純さん…気が付かなかったんですか?明日はバレンタインデーですよ?」
沙梨が呆れ顔で説明してくれた。
バレンタイン、正式名称ウァレンティーヌス。
二月一四日、二七〇年ごろローマで殉教したテルニーの主教聖バレンティヌスの 記念日。
ローマの異教の祭りと結びついて女性が男性に愛を告白する日とされるようにな り、日本ではチョコレートを贈る風習がある。
セントバレンタインデー。
(ああ、もうそんな季節か…) そう考えると頭が痛くなる、明日は学校中でチョコチョコチョコチョコチョコの 嵐、チョコ祭りだ。
どこもかしこも甘ったるい雰囲気になるわけだ、私はあの雰囲気が好きじゃない から今から頭が痛くなってくる…。
「どうかしました?」
「…帰ろう」
沙梨が色々言ってくるが明日のことで頭がいっぱいのためろくに返事を返すこと も出来なかった。

「沙梨は誰かにチョコあげないの?」 玄関で靴を履き変えながらふと尋ねてみた。
「え!?べ、別にその予定は…」 「嘘、顔に書いてあるよ」 沙梨は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
今時珍しい、国の天然記念物に指定してもいいんじゃないだろうか。
「誰にも言わないから言ってごらん?今更隠し通すのは無理でしょ?」 私の言葉に観念したのか沙梨は色々話始めた。
だがあまりにも気が動転しているのか彼女の言ってる言葉の意味を理解するのに かなり時間がかかったが要訳するとこうだ。

1沙梨は同じクラスの原昌弘に恋をしている。
2現在の友達以上恋人未満的関係をどうにかしたい。
3明日手作りのチョコと一緒に自分の思いを伝えたいが料理が全然ダメなのでど うしようか迷ってる。

ポイントはこんな感じ。
「手作りにこだわらなければいいんですけどどうせ渡すならやっぱり…」
自分が想いを詰め込んで作ったチョコと一緒に気持ちを伝えたいのだろう、沙梨 は人一倍純粋だから。
私はその気持ちが痛いほどよくわかった。
(…しょうがない、ここは可愛い沙梨のためにひと肌脱ぐとしますか) 私はある決意を固めた。
「沙梨」
「はい?なんですか?」
「今から材料を買って私の家に行くわよ、チョコの作り方教えてあげる」

沙梨は一瞬何を言っているのかわからない顔をしていたがしだいに事の意味を理 解したのかかなりびっくりした様子でこちらを見た。
本当に表情がよく変わる娘 だな。
「で、でも!そんな迷惑です!!」
「私がいいって言ってるんだから遠慮しない、それにそんなこと言ってたら何も かわらないよ?それとも来年まで待つつもり?」
沙梨は俯いた、図星を突かれたって感じかな?
「こう見えても料理は自信あるし、味を結構いけるよ。それとも私じゃ嫌?」
「そんな!嫌じゃないです。嫌じゃないですけど・・・本当に私みたいなのでも 美味しいチョコが作れるかどうか・・・怖いんです」
本当に可愛いことを言ってくるなぁ、自分の初恋を思い出すようだよ。
「大丈夫、私がちゃんとレクチャーするから」
「・・・わかりました、駄目元で私、やってみます!」
「うん、その意気。じゃさっそく行こうか。あ、それといい加減みっともないか らその百面相やめなさい」
指摘されてまた百面相してる沙梨の手をひっぱりながら私はスーパーへと足を向 けた。
それにしてもバレンタインなんてすっかり忘れてた。 (・・・いや、違うな・・・)
思い出さないようにしていたのだ、あの記憶と共に・・・。


つづく

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